第3回・総合診療塾「学生に知ってほしい緩和ケア1」導入編
2015年10月6日テーマ:筑波総合診療グループ, ステーション, 地域医療教育学講座, 大学, 未来医療GP
第3回・総合診療塾:「学生に知ってほしい緩和ケア1」導入編に参加しました。
レクチャーはワークショップ+講義形式で、ワークショップは、①全人的苦痛、②在宅緩和につなげる、③緩和における家族ケアの3本立てで、1つの症例(57歳女性・進行卵巣癌・腹膜播種で予後は3週間程度の見込みという設定)について、①→②→③の流れに沿って行われました。
「①全人的苦痛」では、患者本人および家族の苦痛を、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインの4つに分類しました。これらは明確に分類することが困難な場合も多いですが、このような分類を試みることの意義として、様々な苦痛をもれなく抽出すること、それぞれの苦痛に対して具体的な対応を考える際の参考になることなどが挙げられていました。
一度緩和ケア病棟に入院した患者でも、退院できる患者は約20%ほどいますが、退院するためには様々な条件や準備が整うことが必要で、「②在宅緩和につなげる」では、一度緩和ケア病棟に入院した患者が自宅での生活を希望し、退院を考慮する場合、どんな準備が必要かをグループごとに話し合いました。家族の介護力の問題、介護保険・費用等の問題、ケアマネージャーの介入、訪問診療・往診、訪問看護・介護等のサービスの導入、介護用ベッドなどの物品、家屋構造の確認(車椅子で移動可能かなど)が挙がりました。
緩和ケアにおいて患者だけでなく家族のケアも重要で、「③緩和における家族ケア」では、日に日に衰弱していく患者を前に、「もうだめなのか」という夫と、娘が徐々に衰弱していくことを悲しんでいる両親、何もさせてあげられないと無力感と悲しみに陥る3人の息子たちに対して、往診医という立場でどのような声かけをするかを話し合いました。声かけは難しいですが、例えば、「何もさせてあげられない」という息子たちには「あなたたちが頑張っているから、お母さんはこうしてご自分の希望通り、お家で過ごせているんですよ」とか、介護疲れがあるようであれば、「あまり無理をしないで下さいね」と声をかけるのも良いのではないかという意見もありました。また声かけが難しくても、家族の話に耳を傾けて、その思いをしっかりと受け止めてあげることも大切だという意見は多かったです。結局、「家族ケアにおいては患者単位ではなく家族単位で取り組む必要があり、医療者は患者とその家族について配慮する必要がある。家族ケアとは、家族が「負担が少なく」、「今後起こりうる事態に対する準備が整っている」状態でいられるように支援するアプローチのことである」ということでした。
このような視点は多くの医師に求められると思いますが、特に総合診療医に強く求められるものだと思います。
私自身は苦痛に対する配慮、退院調整(在宅医療、サービスの調整)、家族への声かけなど、部分的には市中病院の入院診療で日常的に行っていたことも多かったのですが、その具体的な方法論については体系化せず、「なんとなく」行っていた状況でした。しかし今回このレクチャーを受けて、緩和ケアのアプローチで必要なことが、しっかり言語化、体系化でき、頭の中で整理できたのが大きな収穫だったと思います。学生向けのレクチャーでしたが、後期研修医としても非常に勉強になる内容でした。今回のレクチャーで学んだことを今後、診療で活かしていきたいと思います。
S2 海老原 稔