実際どうなの?
Q&A

  • 総合診療は、ある程度経験を積んだ医師であれば、誰でもできるのではないでしょうか。

    専門細分化が進んでいる現在、診療科ごとにどうしても疾患や患者層に偏りが出てしまいます。例えば、内科の診療をずっと続けていても、外傷や小児の診療ができるようになるのは難しいでしょう。医師としての経験を積むだけで、ひとりでに「まんべんなく、一定のレベル」に達することは難しく、総合診療能力を修得するには、計画的・体系的なトレーニングを受ける必要があります。

  • 都市部であれば、どの診療科であっても1時間以内にアクセスできるので、総合診療医は必要ないのではないでしょうか。

    高齢化が進み、一人の患者が複数の複雑な問題を抱えることが多くなってきました。これらの問題は複雑に絡みあっており、臓器別に切り分けて個別に対応すればそれで事足りるわけではありません。患者をトータルでとらえ、包括的に対応して、患者に「困ったことがあったら、この先生に相談すれば何とかしてもらえる」という信頼感を与えられる存在である総合診療医は、都市部でも必要です。

  • 臨床研修の2年間で、内科、外科、小児科など多くの科をローテーション研修するので、総合診療の研修はそれで十分ではないでしょうか。

    臨床研修は、総合診療能力の修得に重点を置かれており、基礎的な臨床能力を身につけるうえで大切な研修です。しかし、指導医の監督下で数か月の研修を受けただけでは「独立して診療を提供できる」レベルに到達するのは難しく、また病棟中心の研修では外来や在宅などの診療の場の経験も十分とは言えないため、独立して質の高い総合診療を実践できるようになるには、さらに研修が必要です。

  • 将来は総合診療に従事したいと思っていますが、ベテランの医師から「まず何か一つ専門医を取ってから、あとから総合診療をやればよい」と言われました。その方が良いでしょうか。

    他の専門医を取ってから、総合診療を実践している医師もたくさんいます。ただ、専門医としてのトレーニングを受ける中で、どうしてもその専門領域中心の思考回路が身についてしまい、あとでバランスよく総合診療に幅を広げるのは難しいのも事実です。また、医師としての経験年数を重ねた後で、若手指導医の下で細かな指導を受けながら研修を積む環境も作りにくいという事情もあります。
    つまり、将来的に総合診療を自分のキャリアの中心に据えたいのであれば、初めから体系的なトレーニングを受ける方が確実で効率的です。これは、英語の修得に例えると、幼少期から海外に居住して学ぶ方が有利なのと似ています。

  • 医療が発達した現在、総合診療科が「全部診る」ことは不可能ではないでしょうか。

    もちろん、総合診療だけで医療を完結することはできません。ただ、プライマリ・ケアでは、日常よく遭遇する疾患で、かつガイドラインを適用できるレベルであることがもっとも多いので、必ずしも専門医が対応する必要がない患者がもっとも多いことも事実です。総合診療医は、このような健康問題を、まんべんなく確実に診ることができるので、結果として地域住民の抱える健康問題の多くに対応できます。もちろん、専門診療が必要と判断した場合は、適切なタイミングで専門科につなぐことも、総合診療医の重要な業務です。

  • 総合診療がカバーする範囲が広すぎて、将来自分が将来できるようになる気がしません。総合診療は、頭がいい人でないとできないのでしょうか。

    初期研修後、3~4年間の体系的な専門研修プログラムで、しっかりした指導体制の下でさまざまな研修の場で経験を積めば、総合診療医としての基礎的な能力をひととおり身につけることができます。もちろん、医療はどんどん進歩していますから生涯学習は欠かせませんが、きちんとした研修を受けることで、総合診療医/家庭医としての第一歩を踏み出すことができます。

  • ベテランの指導医から、医師は「これだけは人に負けない」という得意分野を一つは持つべきだと言われました。その意味で、総合診療は中途半端なのではないでしょうか。

    総合診療の必要性で説明したように「場を診る」「まるごと診る」「ずっと診る」ことができる総合診療医には高い専門性があり、社会からのニーズも高く、医師としての立派なキャリアの一つです。厚生労働省の「専門医の在り方検討会報告書」においても、総合診療専門医は基本領域専門医の一つとして認められています。

  • 何か(臓器別の)専門を持っていないと、将来医師過剰時代を迎えたときに働く職場がなくなると聞きました。本当でしょうか?

    地域医療構想でも示されているように、今後は病床の機能分化がより一層進むことが確実です。多くの領域において、臓器専門医がその専門性を発揮できるのは高度急性期・急性期病床ですが、これらの病床は集約化により約3割減らすことが目標に掲げられている一方で、総合診療医が専門性を発揮しやすい回復期や在宅については、大幅に増える見通しです。このような状況を考慮すると、将来の医師過剰時代には、むしろ総合診療医のほうが働く職場に恵まれているといえるでしょう。実際、政府は2040年を見据えた三位一体改革において、「総合的な診療能力を有する医師の確保等のプライマリ・ケアへの対応」を掲げており、医療政策上も重点的な支援が行われるでしょう。

  • 総合診療科は、内科とはどう違うのでしょうか?

    実際には重なる部分も多いのですが、内科との違いとしてわかりやすい点としては、成人だけではなく小児を含めた全年代を診ること、内科疾患以外の分野も含めた日常よく遭遇する症候、疾病(外傷、皮膚疾患、ウィメンズヘルス、精神疾患などを含む)に対して、まんべんなく適切な初期対応と継続的な医療を包括的に提供することなどが特徴です。また、地域において、保健・医療・介護・福祉に関わる多職種と協働して地域包括ケアにおいて中心的な役割を担うことができるのが総合診療医の強みです。

  • 総合診療専門医制度は歴史が浅く、きちんとした研修が受けられるのか心配です。充実した研修ができるプログラムを探す方法があれば教えてください。

    プログラムの質を見極めるのは大変難しいですし、一概には言えないのですが、新家庭医療専門研修プログラムの認定を受けていることが一つの目安になるでしょう。新家庭医療研修プログラムは、総合診療専門研修プログラムの基準と比べて、より高く、より広く、より確実に専門能力が修得できる体制が整っていることが認定条件になっているからです。
    もう一つの目安として、現在専攻医が在籍しているかどうかも参考になるでしょう。そのプログラムを進路として選んだ専攻医が実際に存在していて、指導経験を持つ指導医が在籍していることを意味しているからです。
    ただ、ホームページだけではわからない部分もありますので、時間の許す限り見学に行って、現場を見て、指導医や専攻医と話して雰囲気をつかむことも大切です。

  • 総合診療に興味はあるのですが、私の大学にはきちんと教えてくれる先生がいません。どうしたら勉強できますか?

    ぜひ、いろいろな施設を見学に行きましょう。そこで働く総合診療医/家庭医の姿を見て、自分のロールモデルだと感じたら、見学後も積極的につながりを保って、指導を受け、相談にのってもらいましょう。
    また、プライマリ・ケア連合学会の学術大会やセミナーなどの機会も積極的に活用しましょう。最近はオンラインで開催されるイベントも増えてきたので、参加もしやすくなっていると思います。