筑波大学附属病院総合診療科 ブログ

総合診療塾が開催!

2016年2月22日テーマ:筑波総合診療グループ, ステーション, 地域医療教育学講座, 大学, 未来医療GP

筑波大学総合診療科の前野哲博先生による、総合診療塾が開催されました。
対象者は医学類の臨床実習中の4,5年生でした。私は大学院生(薬剤師)ですが、是非参加したいとのお願いを受け入れていただき、医学類の学生の方々に混ざって参加させていただきました!

今回のテーマは鑑別診断。
診察室での患者さんと医師のやり取りのビデオを見て、鑑別疾患を挙げていき、グループで討論する、という形式のワークでした。
あ
ビデオは患者さんとの一連のやりとりを見て考えられる疾患を挙げる、検査をオーダーするなら何をオーダーするか、鑑別の重みづけをどうするか?などの実際の診察の流れと同じようにグループワークを行いました。グループは4,5年生が混ざって構成されていて、特に高学年の人が率先して討論を盛り上げてくれました。

しかし今回のケース、考えれば考えるほど、何が原因なのか分からないケースでした。

患者さんは42歳の女性、2か月くらい前からの全身ガラスに刺されたように痛い下垂体腫瘍で6年前に手術歴があり、他科通院し、ステロイドと甲状腺ホルモン剤の内服を続けているという方でした。

鑑別は多発筋炎、PMR、線維筋痛症、 など様々挙がりました。が、考えてもどれもぴったり説明がつかない…
「この患者さんの問題は何だったのか?」

い
答えはなんと「ステロイド内服の中止による副腎不全」だったのです。服薬に関して、問診でも医師は質問していたのに、これだと分かるまでにかなりの回り道をしました。

どうしてでしょう。

ポイントは、ビデオ中の問診でのこんなやりとりでした。
医師「今、いつものお薬以外で飲んでいる薬はありませんか?」
患者「いいえ、ありません」
医師の頭の中…「飲んでいる薬はステロイドだけだな」

医師の常識では、ステロイドを急に止めるということは考えにくいので、他科が処方している定期処方のステロイドは継続している、他に飲んでいる薬はない、ととらえたのです。

患者さんとしては、いつもの薬「以外に」と言われたので、「いいえ」と答えた。さらに、前回下垂体腫瘍の経過で受診した時に検査の結果が良い、と言われていたので、医師が(どうして処方がなかったのかはわからないのですが)ステロイドの処方をしなかったことに疑問を持たず、「良くなったので薬が中止になったのだろう」と解釈し、ステロイドの処方がなくても気にならなかったとのカラクリでした。

ちょっとした聞き方のニュアンスの違いで、患者さんからステロイドを急にやめていたことを聞き出せていなかったのです。私は薬剤師という職業柄、薬の中止による症状だということに気付けなかったことが、とても悔しかったです。

「どんな時も薬によるものは忘れない」という前野先生の言葉を再度頭に入れてこれからの仕事に励みたいと思います。そして患者さんとのコミュニケーションではまず「オープンで聞く」ということを、心がけたいと思いました。

(大学院生 松下綾)

 

★総合診療科 スタッフ 高屋敷明由美より★
終了後に、参加してくださった医学生さんへ「今日の学びを一言でいうと?」と問といかけたところ、「患者さんと医療者の考え方のgap」「医師の先入観のこわさ」「鑑別診断リストの一つ一つについて、合う点合わない点を細かく議論できたこと」「コミュニケーションの難しさ」「ずばり、総合診療のおもしろさ」などをあげてくださいました。目をキラキラさせながら討論している様子に、参加者が将来医療現場で活躍される姿が目い浮かび、企画者としてとてもうれしい気持ちになりました。

今年度の総合診療塾はこれで終了です。次年度も様々な企画を立てていきたいと思いますので、是非楽しみにしていてください!