Editorial
井階 友貴
要旨
日本は医療の専門性を高めることで世界的な医療先進国になったが、総合診療分野に関しては後進国である。世界に類を見ない高齢化、今後見込まれる医療需要の爆発的増加、人口減少や社会格差の進行などにより、総合診療医の役割が注目されるようになり、ようやくその育成も国を挙げて始まった。その効果・意義については、今後の調査が待たれるところであるが、既に先進的な取り組みを展開している総合診療医のはたらきについて、その取り組みの詳細およびエッセンスを広く共有することは、育成の過程をより意義のあるものにするために非常に重要である。
また同時に、将来総合診療医の役割や総合診療医育成の効果・意義について、さまざまな根拠が十分に蓄積されたとしても、日本全国地域ごとに、医療資源、人口構成、人口密度、地域性など、諸々の条件が異なるのは明白であり、地域にとってふさわしい医療を提供すべき総合診療医の目指す姿や取り組みが、全国一律にマニュアル化・ガイドライン化されたとしても,それだけに頼ることは正解でないと想像される.そんな折に重要になるのも、全国の取り組みを広く集積し、そこから総合診療医のコンピテンシーを紡いで共有することであると考える。
本事例集は、全国各地の総合診療医による先駆的な病院、在宅/診療所、地域連携、教育、研究の取り組みについて、その取り組みの背景と導入経緯から、取り組みの成果や今後の展開までを詳細に示したうえで、考察として、総合診療医としての専門性、総合診療医によるタスクシフティング、医療や社会に与えるインパクト、他の地域での応用可能性についてまとめあげたものである。本事例集こそ上記2つの目的にかなったものであり、今後このような事例が益々集積され、更新・共有されるようなシステムが発展・継続することを願ってやまない。
最後に、日々の忙しい総合診療医としての業務の中で、貴重な時間を割いて事例を提供いただいた先生方に深く感謝の意を表します。
事例提示
事例は地域ごとに掲載されています。見たい地域をクリックすると、地図の下に当該地域の事例が表示されます。
北海道
東北
関東
- 東京
- 神奈川
- 千葉
- 茨城
中部
- 静岡
- 富山
- 福井
- 岐阜
近畿
- 滋賀
- 京都
- 奈良
- 大阪
- 兵庫
中国
四国
九州
- 福岡
- 佐賀
- 宮崎
- 長崎
沖縄
- 北海道
総合診療医による「地域住民の経済的社会問題」と
「病棟患者の転帰に影響する栄養状態」に関する“地域”調査
佐藤 健太
要旨
大規模病院への臓器別専門医集約に伴って空洞化した中小病院に総合診療医が赴任し,地域の分析と病棟の分析を行うことでハイリスクな地域や症例を同定し,少ないリソースで効果的な地域ケア・病棟診療を実現した.その結果臓器別専門医は専門医療に集中でき,総合診療医もその専門性・コアコンピテンシーを発揮でき,双方にとって仕事の質や満足感を高められる組織変革を成し遂げることができたため,ここに報告する.
急性期病院を会場として持ち回りで開催する
函館オープンカンファレンスの取り組み
川口 篤也
要旨
地域包括ケア時代の現在,単独の医療機関で患者を最期まで診ていくことは少なく,法人を超えた連携によって地域全体で患者を支えることが必要である.そのために急性期病院側と在宅側の相互理解を促進させ,より良い連携に結びつけるために,急性期病院から在宅に紹介された事例のデスカンファレンスを,会場を急性期病院持ち回りとして開催した.参加者は院内外の事例に関わった人以外に,事例に関わっていない人も若干参加できるようにしたところ,毎回100 名前後の参加があり,これまでに函館市内の5 つの急性期病院で計6 回のカンファレンスを開催した.アンケート結果からは相互理解が進み今後の地域全体のケアの向上に役立つと思われる内容であった.今後はまだ開催していない病院での開催と,一度行った病院でも何度も開催していくことで,相互理解が深まり,地域全体のケアの質の向上につながると思われた.
家庭医/総合診療医の活動が与える地域住民の受療行動変化
~寿都町立寿都診療所における地域ケアの実践報告とその効用分析~
中川 貴史
要旨
【背景】
約3000 人の北海道寿都町は多大な財政負担を抱えた道立病院を町立診療所に移管し,家庭医,総合診療医を中心とする地域医療を展開している.
【事例】
家庭医,総合診療医を中心とした寿都診療所での包括的かつ継続的な家庭医療の実践,地域やコミュニティを対象とした様々な取り組みを行ってきた.
【結果】
移管前年間4 ~ 5 億円の赤字であったが,現在の寿都診療所においては1億円へ圧縮され,町の実質負担が3千万円弱となっている.国保被保険者中の町内医療機関受診率が平成17年度46.5%から28年度58.8%と年間約1%ずつ増加し続けている.休日時間外受診患者数が17年度1011人から28年度772人へ,救急車搬入数が17年度169件から28年度76台へと減少した.
【考察】
家庭医療,総合診療により住民と医療機関との信頼関係が構築されてきた結果と考えられる.家庭医,総合診療医の増員,ならびに循環型地域医療モデルの拡充により持続可能な地域医療達成の可能性がある.
- 福島
福島県における家庭医・総合診療専門医育成と地域医療への取り組み
北村 俊晴・石井 敦・川井 巧・高澤 奈緒美・菅家 智史・武田 仁・星 吾朗・若山 隆・中村 光輝・豊田 喜弘・森 冬人・渡邉 聡子・舩山 敏男・宍戸 都晃・葛西 龍樹
要旨
2006年3月に福島県立医科大学が,全国の大学で初めて大学附属病院でなく地域を基盤として家庭医・総合診療専門医を育成する部門「地域・家庭医療学講座」を開設した.現在までの12年間で,県内6か所の地域にある診療所と病院に診療・教育拠点を作って取り組みを進めてきた.多職種連携,在宅医療,へき地での診療とキャリアパス,学生実習,地域の医療ニーズの補完,救急医療への貢献,女性医師のワークライフバランス,そして国際交流について,どのような成果がこのプロジェクトから生み出されたのかを示した.こうした取り組みが全国の他の地域でも取り組まれるためには,1つの医療機関や地域の中だけでの家庭医・総合診療医育成ではなくより広域での取り組みとすること,そして,総合診療医の専門性と家庭医療学の原理を十分に理解し実践できる核となる家庭医療・総合診療指導医群を重点的に育成することが重要である.
- 東京
- 神奈川
- 千葉
- 茨城
東京と兵庫における「モバイル屋台de 健康カフェ」の実践:
総合診療医が行う新たなアウトリーチ・モデル
孫 大輔
要旨
地域志向性ケアの一つのあり方として「モバイル屋台de 健康カフェ」プロジェクトを紹介する.総合診療医と多職種が協働し,東京の「谷根千」地域と,兵庫県豊岡市でモバイル屋台によるアウトリーチ活動を実践した.モバイル屋台は健康無関心層へのアプローチや多世代がつながる場として,「小規模多機能」な機能を発揮する可能性がある.コーヒーや屋台といったカジュアルな装置をきっかけとして,そこでのコミュニケーションは健康や医療そのものではなく,屋台に対する興味など日常性から発生していた.こうしたアプローチを今後,総合診療医が積極的に行うことで,地域住民とのパートナーシップ形成や,多職種との「顔が見える」連携がとりやすくなる効果が期待できる.
在宅現場の経験と多職種との討論が総合診療マインドを育成する
沼沢 祥行
要旨
在宅現場や地域総合病院での経験を生かし,総合診療医となる1つのキャリアパスを例示する.たとえば,①神経内科専門研修と並行する形で,在宅療養支援診療所に非常勤勤務での関りを続け,②診療所や地域総合病院で,リハビリテーションスタッフを始めとした多職種と日々討論を重ね,③得られた経験をいくつかの学会・論文報告や,在宅医療に関連した総説の執筆につなげるなどの種々の経験を重ねるなどを経て,④総合診療医として継続性・近接性・包括性を意識した臨床へつなげることである.プライマリ・ケアの5 つの理念である“ACCCA”を体得・体現する場として在宅医療の現場があり,総合診療医の育成と総合診療マインドを持った各専門診療科医師が相補的に連動して動くことが有効であり,両者の育成の主軸を担うのが総合診療医であろうと考える.
家庭医のグループ診療が都市部の地域包括ケアにいかに有効であるか
~大都市圏における家庭医の有効性
喜瀬 守人
要旨
医療生協は地域住民である組合員が中心となって組織された医療・介護・福祉の複合事業体で,多くの事業所でプライマリ・ケアを提供している.CFMD 東京(後述)は都市型診療所において質の高いプライマリ・ケアを実践することを目標として設立された組織で,2006 年から日本家庭医療学会(後述)認定の家庭医療プログラムに参加し,現在は9 つの診療所に21 人の総合診療医が所属し,プログラムから27 人の家庭医療専門医が誕生するまでになった.現在は総合診療医が中心となって,健康格差の拡大,高齢者人口の爆発的増加,プライマリ・ケアの分断など,人口構造と医療提供体制の変化によって都市部で特に大きくなる健康問題に対応するために,社会的処方の実践,統合的ケアの推進,地域住民や行政まで巻き込んだ地域包括ケアなどに対して,積極的な取り組みを続けている.
横浜市保土ケ谷区における総合診療の実践ならびに地域包括ケアシステム・
地域基盤型医学教育の展望に関する報告
八百 壮大
要旨
本報告は,独立行政法人地域医療機能推進機構(以下JCHO)横浜保土ケ谷中央病院総合診療科の活動と,今後の展望についての報告である.都市部では,少子・高齢・多死社会を筆頭に,在留外国人の増加や格差の拡大など,社会情勢は複雑化しており,病院に求められる機能や人材は絶えず変化している.同院に2015 年4 月から開設された総合診療科が2018年2 月までの間に,法人や病院の沿革とともに歩んできた過程についてまとめ,著者(プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医)が研鑽した長野県佐久市・南佐久群での農村医療研修の強みを省察し,都市型の地域包括ケアシステムならびに地域基盤型医学教育の今後の展望について考察し報告をする.
在宅診療医が地域病院の緩和ケア病棟でチーム医療を実践しているケース
舟槻 晋吾
要旨
診療所から病院へ派遣された医師が,地域の癌末期患者を支えるチーム医療を実践している例を紹介する.
松戸市の在宅診療所であるあおぞら診療所は,同市の東松戸病院緩和ケア病棟に,週に二日医師を派遣している.そのため,東松戸病院では医師不足が軽減するとともに,あおぞら診療所は自宅から緩和ケア病棟へ入院される方に一貫した療養生活を提供できるようになった.また,今年度は,一旦緩和ケア病棟に入院したものの自宅療養を希望される方を,退院後もあおぞら診療所の訪問診療により自宅で最後まで支える例も散見されるようになった.地域包括ケア時代において地域の方を治し支える包括的・継続的な在宅医療は重視されており,その役割は総合診療と重なる部分も大きい.総合診療医はその専門性を生かし,すみ分けを通して臓器別専門医の負担軽減を担うばかりではなく,地域に住む本人や家族にも満足のいく医療を提供できると思われる
大学-地域連携型の地域医療/ 総合診療部門の構築
前野 哲博・横谷 省治
要旨
筑波大学総合診療科では,地域における最適な教育のフィールドに大学の持つ教育機能を展開することを目的として,地域医療教育センター・ステーション制度の構築に取り組んできた.これは,自治体等からの委託費や寄附金で,大学が総合診療医を指導医として雇用して,地域医療に精力的に取り組んでいる医療機関に派遣して教育を行うシステムである.例として複数の指導医と専攻医を派遣している北茨城市では,病院総合診療と家庭医療の2 つの拠点を持ち,診療,地域ヘルスプロモーション,総合診療医の養成,学生の地域医療教育,地域をフィールドにした研究などで大きな成果を上げている.この取り組みにより,本学の教育体制は飛躍的に充実し,これまで33 名が家庭医療専門医を取得するなど,研修施設として全国的に有数の規模を有するようになった.このモデルの実現には,大学,自治体,住民,地域医療機関が一体となって,「地域で活躍する医師は地域で育てる」という理念を共有して,主体的に教育に関わる体制を構築することが重要である.
総合診療医が大学と地域をつないで企画実施する
「筑波大学における体系的な卒前地域医療教育プログラム」の事例
髙屋敷 明由美
要旨
筑波大学では,総合診療医が地域の医療機関と連携して低学年からの体系的な総合診療・地域医療の教育プログラムを実施している.2 年次在宅ケアのケース討論・地域医療実習(1週),3 年次の地域ヘルスプロモーションコース(1週),5-6 年次の総合診療科クリニカル・クラークシップ(4 週)と選択実習(4 週)を実施し,6 年間を通じて繰り返し学ぶことで,地域背景にあわせた医療者の患者を捉える総合的な視点や地域の現場で求められる総合診療医の役割と,保健・医療・介護などの職種間連携の必要性を真に理解した医師を養成してきた.全ての学生に関わることのできる大学における卒前教育に総合診療医がコミットできる意義は大きく,今後の社会ニーズに対応するために各大学における教育へ関われる総合診療医の配置が望まれる.
- 静岡
- 富山
- 福井
- 岐阜
静岡県中東遠地域における「住み慣れた家で最期を過ごしたい」を叶える
総合診療専門研修の取り組み
井上 真智子・松田 真和・棚橋 信子
要旨
医療提供体制の確保が厳しい地方自治体で家庭医・総合診療医養成事業を開始し,総合診療医の教育診療拠点として2 カ所の機能強化型在宅療養支援診療所の新規設置につながった.総合診療専攻医や指導医らによる包括的な訪問診療により,最期は家に帰りたいと希望する患者の訪問診療依頼件数が次第に増加した.総合診療医による在宅医療の充実・強化を通して,患者・家族が満足できる人生の最終段階のケアと看取りを実現できるようになった.世帯構成や住宅事情などの地域特性や医療介護提供体制の個別事情によるところはあるが,総合診療医を中心とした機能強化型在宅療養支援診療所は,本人・家族の意向や希望に添った人生の最終段階の過ごし方を支援する地域包括ケアシステムに貢献する可能性がある.
総合診療医の行う研究
―その重要性,現状,今後の展望について―
金子 惇
要旨
事例の概要
報告者は総合診療医としての臨床経験を活かしながら,「プライマリケアのための臨床研究者育成プログラム」,家庭医療学開発センター(CFMD)リサーチフェロー+ 大学院(博士課程)授業細目「地域医療プライマリケア医学」,「Western University Master of ClinicalScience: Family Medicine」などを学びの場として総合診療に関する研究を行っている.これまで10 編の論文を発表しており,今後も総合診療が社会に与えるインパクトを中心に研究を行う予定である.
考察
現段階では日本からの総合診療領域における研究発信は他国と比較して少ないことが報告されているが,様々な学術団体が総合診療医向けの研究支援プログラムを提供しており今後の発展が期待される.総合診療領域の研究が発展することで,一般住民が診療所や訪問診療,病院外来で受けている医療がどの様なものであるか,どの様な健康アウトカムと関連しているか,今後どの様に医療政策を方向付けるべきかなどに関する知見が蓄積されていくと考えられる.
都市中心地に設立した公設公営診療所での総合診療医
三浦 太郎
要旨
<事例の概要>
富山市では2017 年からまちなか診療所を運営している.本事業は,富山市と富山大学の協働により行われた.活動のモデルとして,たまねぎモデルを用いた5 つの活動を行っている.地域医療機関への在宅医療支援,山間農村部への訪問診療,病院との相互理解促進,在宅で暮らせる文化づくり,人材育成である.
<考察>
総合診療医は地域志向型ケアを実践する能力を有している.そのため本事例では,市の在宅医療の普及という課題について具体案を提案・遂行できた.また,多職種の特性を理解していたため,多職種への関わりをスムースに出来た.まちなか診療所が出来たことで,かかりつけ医や病院の臓器別専門医の負担を軽減出来てきていると思われる.自治体が総合診療医を育成している大学や医療機関と組むことが出来れば他地域でも現実性が高いと思われる
地域社会参加型研究を意識した地域包括ケア構築の取り組み
~総合診療医による健康のまちづくりモデル
井階 友貴
要旨
総合診療医は,医師の中でもCommunity-Oriented Primary Care(COPC)をそのコンピテンシーとしているいわば“地域の専門医”であり,地域包括ケアの構築や地域共生社会の創造の課題解決にリーダーシップを発揮しながら取り組むことが望まれる.筆者の活動する福井県高浜町では,これらの地域課題に対し本質的・効率的な取り組みとなる地域社会参加型研究(Community-Based Participatory Research: CBPR)を意識した地域社会活動「けっこう健康!高浜☆わいわいカフェ」(通称「健高カフェ」)を総合診療医がコーディネートし,2015年11 月の開始から2018 年3 月までに,25 個のテーマが話し合われ,16 個の取り組み・施策が協議に入り,20 個の取り組み・施策が実現している.本事例は,総合診療医の地域志向アプローチと地域における協働といった専門性がいかんなく発揮され,多職種のみならず行政・住民間でのタスクシフティングにも寄与し,地域主体の地域課題解決手法の1 つとして汎用性もあるため,医療・社会におけるインパクトは大きい.
- 滋賀
- 京都
- 奈良
- 大阪
- 兵庫
総合診療医が赴任することにより町内でかかりつけ医を持つ割合が増えた
雨森 正記
要旨
目的:
総合診療医が赴任することにより,町内でかかりつけ医を持つ住民の割合が増えたかどうか探ることを目的とした
方法:
滋賀県東近江地域で2 年毎に行われていた「まちづくり意識調査」の中の受診している医療機関の地域別割合の推移を検討することにより,総合診療医が町に赴任してから町内の医療機関に受診する住民の割合がどのように変化したかを検討した.
結果:
町内の医療機関に受診していた町民の割合は,総合診療医が赴任する前の平成元年3月には18%だったものが徐々に増加し,平成13 年3 月には30%に増加していた.
結論:
総合診療医が町に赴任することで,遠方の病院まで受診していた住民が減り,身近にかかりつけ医を持つようになるという住民の受診行動が変化した.
複数の総合診療医のグループ診療で在宅看取り率県内1位の町になった
雨森 正記・大竹 要生・三砂 雅裕・辻岡 洋人・喜多 理香・永嶋 有希子・中村 琢弥・田村 祐樹
要旨
目的:
滋賀県竜王町にある医療法人社団弓削メディカルクリニック(以下当院)では,複数の総合診療医と専攻医によるグループ診療を行い24 時間365 日の在宅医療の対応を行っている.複数の総合診療医のグループ診療を行う事で各医師の負担を減らし,在宅看取りが増加することを証明することを目的とした.
方法:
当院の在宅看取り数の推移,竜王町の在宅看取り率の推移,竜王町の県内での在宅看取り率の順位について検討した.
成果:
当院での年間の在宅での看取り数は40 名を越えるようになり,これまで少なかった特別養護老人ホームや認知症対応グループホームといった施設での看取りも増加していた.竜王町では毎年20%前後の自宅死亡率となっており,平成28 年には滋賀県の市町の中で第1 位になっていた.
結論:
複数の総合診療医のグループ診療を行う事で,各医師の負担を減らす一方で在宅看取りを増やすことが出来る.
総合診療医の関わりにより,地域内施設での看取り数が増加した
三砂 雅裕・大竹 要生・辻岡 洋人・喜多 理香・永嶋 有希子・田村 祐樹・中村 琢弥・雨森 正記
要旨
目的:
総合診療医が関わることで,地域内施設における看取り数が変化したかどうかを調べた
方法:
家庭医・総合診療医のグループ診療を行なっている医療法人社団弓削メディカルクリニック(以下当院)が嘱託医となっている認知症対応グループホーム(以下GH)・特別養護老人ホームにアンケート調査を行い,看取り数がどのように変化したかを検討した
成果:
当院が嘱託として関わった特別養護老人ホームにおいて,年間の施設内看取り数が7.2人から9.3 人に増加した.
結論:
総合診療医が施設に対して関わることで,施設内での看取り数が増加した可能性が示唆された.
病院における総合内科発足の効果
和田 幹生・川島 篤志
要旨
市立福知山市民病院では平成20 年秋に総合内科が発足し,平日日中の内科初診や内科系救急,及び,常勤の臓器別専門医が不在の内科領域の入院診療の大部分を担当している.また,整形外科の高齢入院患者の既往症や合併症対策を担い,研修医教育にも中心的に取り組んでいる.これらにより,臓器別専門医の専門外領域の診療負担が大幅に減少し,高齢者の入院患者の在院日数が短縮し,若手医師の増加にもつながった.さらに,大江分院が家庭医を中心として発足したことで,市民病院の退院調整期間が短縮し,地域で必要な在宅医療が充実した.総合診療医の存在は,医師不足にも対応しながら,臓器別専門医の働きやすさにも関連し,地域で提供される医療の向上にもつながる可能性がある.これらの実現のためには,総合診療医のマンパワー,臓器別専門医と総合診療医がお互いを認め合う関係性,医療機関内外の理解が必要であると考えられる.
過疎高齢化が進む奈良県南部の医療再編において
総合診療医が果たした役割とインパクト
明石 陽介・松本 昌美
要旨
過疎高齢化の進む南和医療圏では医療機能が低下し地域の医療ニーズに応えることが困難な状況にあった.そこで我々は平成25 年4 月に五條病院において総合診療を実践する総合内科を立ち上げ,地域医療再生への取り組みを開始した.(1)総合内科体制構築,(2)副直制度導入,(3)救急受け入れ医師の負担軽減の工夫,(4)臨床指標の掲示,(5)在宅医療支援室立ち上げ,(6)救急消防機関との連携などの取り組みにより,救急医療機能の向上や臓器別専門医の負担軽減や専門性の発揮,在宅医療の推進,地域に求められる病院機能の発展につながった.また病院運営にも大きく貢献しえた.ただ外科系診療機能の向上や地域全体の受け入れ能力の改善には限界もあり,平成28 年4 月に開始された公立3 病院の統合再編による新体制に大きな期待が寄せられた.新体制においても総合内科は地域の医療ニーズに基づき業務の選択と集中を行ない,地域医療再生の取り組みを推進している.
大阪市西淀川区の公立小学校高学年生を対象にした
喫煙防止教室の取り組みについて
蓮間 英希・野口 愛
要旨
大阪市の喫煙率は全国平均のそれより高く,積極的に地域に出て「地域丸ごと健康に!」をスローガンに掲げ,小学生高学年を対象の喫煙防止教室を開催することとした.医師会や薬剤師会,区役所の協力のもと,2016 年度は14 校ある公立小学校のうち6 小学校,2017 年度は7 校に喫煙防止教室を実施した.
事前アンケートでは,半数以上の児童が保護者の受動喫煙にさらされていることが分かった.事後アンケートでは,大人になっても喫煙しないと宣言した児童は大多数であった.今後の課題としては,喫煙開始の低年齢化が問題となってきていることから,小学生低学年を対象に広げることや,中学生や高校生や喫煙している保護者に対しても継続的なアプローチが必要である.
診療所所長として,病院の救急外来および当直業務を担うことで,
より地域医療に貢献できる
長 哲太郎
要旨
大阪市淀川区にあるファミリークリニックなごみ(以下FC なごみ)は,大阪市西淀川区にある西淀病院と同一法人である.2017 年4 月から筆者は,FC なごみの業務と並行して,週1 度の西淀病院の救急外来と病棟当直を担うことになった.診療所外来および訪問診療を行う中で,地域における多数の病院の特徴や紹介のハードルを理解した.西淀病院の救急外来を担当する際には,診療所側の紹介する側の気持ちなどを理解し,よりコミュニケーション豊かに病診連携できるようになった.都市部の往診患者を診る時を具体例にして,総合診療医がプライマリヘルスケアにおけるコーディネーター・ハブの役割を担っていることを述べ,そして,その役割を担うそのためには,同時期に異なるセッティングで診療することが効果的であると考え報告する.
都市部の中小規模病院における地域包括ケア時代への貢献
-病院施設長として
大島 民旗・福島 啓・落合 甲太
要旨
日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医である筆頭著者が都市部の中規模病院の施設長になり,その後取り組んできた内容を紹介する.
地域の連携病院として症状にかかわらず診療する総合外来を開設し,かかりやすさを追求
した結果,患者件数の増加をもたらした.また「高齢者診療に強い病院」を方針に掲げ,高齢者委員会を開催し,ユマニチュードの普及,せん妄の予防介入,ポリファーマシーに対する介入,アドバンス・ケア・プラニングの普及に取り組んだ.結果として高齢入院患者のせん妄発生率の低下(14%→ 9%)をもたらした.
さらにWHO(世界保健機関)の提唱するHPH(ヘルス・プロモーティング・ホスピタル&ヘルス・サービス)ネットワークに加盟し,地域住民のヘルスプロモーションを目的に,スクエアステップの実施,小学校での防煙教室の開催などを行った.
総合診療医が病院施設長となることで,外来・入院ともより幅広い,医療の提供のみならずケアも意識した方向に進めることができ,地域の健康増進活動を含め,地域包括ケア時代に求められる中小規模病院の役割を推進することが容易となる.
家庭医診療所の在宅医療における役割
~家庭医診療所の開業後3 年の訪問診療のまとめ~
花房 徹郎
要旨
当院は,淀川勤労者厚生協会所属の診療所として,2014 年12 月に大阪市淀川区に新しく開業した診療所である.当院の医療圏である淀川区は,人口17 万と市内3 位.高齢化率は約20%,独居高齢者40%と全国平均と比較しても高い.また,新大阪近郊ということもあり,医療機関が密集している地域でもある.法人の主な医療圏である西淀川区からは距離的に離れている.開業して約3 年が経過したが,特に訪問診療部門での地域のニーズが高く,管理件数が飛躍的に増加している.当院での訪問診療の取り組みを振り返り,家庭医療専門医(総合診療専門医)が,在宅医療の要求が今後も高まると予想される都市部において,在宅医療の役割を果たす一つの可能性となりうると考えられたため報告する.
総合診療医として急性期から退院後まで包括的に関わり,
全人的ケアを提供した事例
合田 建・鄭 真徳・小松 裕和・見坂 恒明
要旨
【背景】
卒後研修は,急性期病院で研修することが多く,回復期,退院後の生活まで関わる機会は多くない.
【事例1】
88 歳,慢性閉塞性肺疾患がある男性.時速40km の自動車にはねられA センターへ搬送された.出血性ショックの状態であり,救命出来たが,車椅子生活,気管切開を余儀なくされた.B 病院でリハビリテーションを続け,退院して有料老人ホームへ入所し,訪問診療が継続された.
【事例2】
78 歳,胃癌術後の男性.肺腺癌の治療が副作用で中止されていた.突然,歩行障害を発症し,Trousseau 症候群と診断した.本人の希望,家族背景を考慮し,ヘパリン皮下注射を導入し,退院した.その後,多職種で連携し,終末期ケアを行った.
【考察】
総合診療科を中心とした研修により,急性期から慢性期,様々な診療の場を経験することで,多職種連携や全人的医療を学ぶことが出来る.総合診療科が超高齢社会で全人的医療を基盤とした医療者の教育を担う可能性が示唆された.
- 岡山
奈義町での取り組み
松下 明
要旨
米国での家庭医療専門医を取得後に平成13 年から岡山県北,奈義町での診療を開始し,地域での家庭医療の実践と家庭医療後期研修医育成に取り組んできた.現在は岡山大学との連携のもと,岡山県全域の家庭医療後期研修プログラムや岡山総合診療専門医コースを立ち上げ,岡山県の地域枠医学生や自治医大卒業生が義務年限を過ごす僻地の医療機関でも,専門研修を提供できる体制作りを行うことができた.
奈義町は岡山県北東部に位置し,鳥取県との県境にある中山間地域で,人口5906 人,高齢化率33.2%の小さな町である.この町にある奈義ファミリークリニックでの,18 年間の取り組みを振り返ることで,家庭医が地域に及ぼす影響をいくつかの角度から検証したい.
- 高知
総合診療医が地域の急性期病院に与える効果について
~高知県立あき総合病院の取り組み~
的場 俊
要旨
高知県東部地域(以下,安芸保健医療圏)の急性期の医療を担う高知県立あき総合病院において,初めての総合診療医が赴任して6 年が経過した.直近の10 年間のデータをもとに,総合診療医の赴任前後で,院内の診療状況や病院の医業収支の変化,スタッフの数と雰囲気がどう変化したのか,高知県東部地域の救急医療がどう変わったのか,「総合診療医が果たしてきた役割」という視点で,可能な限りの院内外の診療データを用いて分析を行った.結果,総合診療医は,病院内の各診療科を連携し,医学生,初期臨床研修医や専攻医への教育・共働し,病院を活性化し,病院の収支を回復することに貢献できた.また高知県東部地域の救急医療についても,回復の一助となっていると考えられた.
- 福岡
- 佐賀
- 宮崎
- 長崎
総合診療(家庭医療)により小病院の経営を再建し,
医師確保や地域の多職種連携に貢献した事例
吉田 伸・本田 宜久
要旨
ベッド数96 床の公立頴田病院は,老朽化と4 億円超の累積赤字に加え,大学の医師派遣終了により運営困難となった.経営再建と新病院建設等を条件に2008 年に飯塚市より医療法人博愛会に経営委譲された.米国医師の教育支援も受け,飯塚病院から派遣された医師を中心に総合診療(家庭医療)の専門医育成を開始.結果,常勤医は3 名から14 名に増加した.小児から高齢者まで,予防からケガの処置まで幅広く対応する総合診療外来,病棟でのリハビリテーションや社会調整,通院困難者への在宅医療を切れ目なく提供し収益も大幅に改善し,2012 年に新病院も竣工した.同年厚労省在宅医療拠点事業を受託し,多職種連携を深め地域包括ケアの発展に貢献した.英語論文投稿や国際学会発表も行い,欧米,アジア各国の医師たちが見学に訪れるようになった.当院を卒業した医師たちも各地で同様の病院改革を行っており,中小病院をコミュニティ・ホスピタルと位置づける再生モデルの一つとなった.
佐賀大学医学部附属病院総合診療部の取り組みと実績
― 開設 32年の歴史と軌跡から,総合診療の未来と展望を考える ―
多胡 雅毅・香月 尚子・山下 秀一
要旨
佐賀大学医学部附属病院総合診療部は,1986 年に本邦で初めて国立大学の総合診療部門として設置されて以来,大学病院内での外来/ 入院診療,Walk-in 救急診療,卒前教育,研究,地域の二次医療機関への医師派遣,地域総合診療センターの開設,訪問指導など,様々な取り組みを行ってきた.これらの取り組みを通して,General Mind とResearch Mind,加えて総合診療医育成に対するMind を持った総合診療医を育成している.大学医局が中心となり,総合診療を実践する体制を大学病院と地域医療の現場で構築し,実績を積み重ね信頼を得ることで総合診療の地位を確立し,多数の総合診療医を幅広い領域に輩出してきた.2018 年現在,医局に所属する医師は27 名まで増え,マンパワーの充実とともに,地域の二次・三次医療機関へ医師の派遣が行われ,県内の地域医療を支えることが可能となった.
地域で必要な人材は地域で育てる― 宮崎県串間市で実践してきた総合診療医による地域医療基盤型総合診療教育について ―
松田 俊太郎・吉村 学
要旨
医師不足に悩む宮崎県串間市で,診療および教育能力を有する総合診療医 1 名が地域中核病院に着任して地域医療基盤型総合診療教育の場をつくり,“地域をまるごと診る”ことを通じて,医学生,初期研修医,総合診療専攻医を同時に育成する卒前卒後教育を実践した.“地域に必要な人材は地域で育てる”ことを目標にしながら,総合診療を実践することで,医学生・初期研修医の地域医療教育の大幅な増加,そして外来・入院医療のみならず在宅医療の充実,在宅看取り数の増加などのアウトカム改善をもたらした.総合診療医をキャリアとして選択した専攻医も徐々に増えてきており,地域の一病院の活性化に寄与することができた.
- 沖縄
沖縄県における総合診療医の「島医者」としての活動1
沖縄県がどのように「島医者」を確保してきたのか
本村 和久
要旨
沖縄戦の後の深刻な医師不足の中で,公衆衛生看護婦駐在制度や離島へき地限定の医師免許と言える医介輔制度が離島の保健医療環境を支えた.その後,1967 年から沖縄県立中部病院での卒後医師養成がはじまり,離島への医師派遣も徐々に広がっていった.現在は,沖縄県立病院が展開する離島診療を単独で行うために特化した家庭医療専門医プログラム・総合診療専門研修プログラムの在籍者・卒業生で16 ある県立離島診療所がカバーされている.総合診療医の教育に力を入れることが,離島医療の人材確保に重要であり,離島診療所での経験がさらに総合診療の幅を広げるものになるであろう.
沖縄県における総合診療医の「島医者」としての活動2
島医者はどのような仕事をしているのか
~伊平屋村の実践事例~
船戸 真史
要旨
伊平屋村は沖縄県最北端に位置する有人離島であり,筆者は村内で勤務する唯一の医師,即ち島医者(しまいしゃ)である.本島への医療アクセスが地理的に限られていることから,島医者には島民全ての健康問題に対応する幅広い診療能力が求められており,更に学校保健,感染対策,終末期医療など,島内におけるヘルスケア全体に関わる幅広い役割を担っている.
筆者は卒後総合診療専攻医として研修し,2016 年に赴任.直後より地域ケア会議の立ち上げに携わり,多職種連携を基本に地域課題へのアプローチを行った.2 年間の活動の結果①認知症早期発見ワークショップの開催②アドバンス・ケア・プランニングの推進③ B 型肝炎ワクチンの接種対象拡大に貢献した.このように,総合診療医は,特に医療従事者の少ないへき地・離島において,利用可能な地域医療資源を効率化・最大化させるコミュニティリーダーとして重要な役割を果たしている.
沖縄県における総合診療医の「島医者」としての活動3
島医者のサポート体制にはどのようなものがあるのか
神山 佳之
要旨
台風,天候不良などで容易に孤立する離島が多く存在するが,そこで働く医師はその地域で唯一の医師である.その医師たちの支援を行う「ドクタープール制度」が平成14 年4 月導入された.具体的な支援内容は診療所への代診業務の他に,診療所医師の研修計画や研修指導,診療所の医療支援,診療所所在市町村との連絡調整などがある.年間平均60 日の代診業務を行い,後期研修プログラムの期間である離島診療所医師に対して,代診期間を利用した振り返りも行っている.また,診療所所在市町村主管課長会議にも参加し,離島診療所からの要望を伝え,これまでの課題に対する進捗状況などを確認するなど協力している.「同じ経験をしたことのある先輩として」総合診療医(家庭医療専門医)が後輩医師を教え指導していくことは,全国でも実現可能だと考える.