ごあいさつ
急速に高齢化が進む我が国において、総合診療医の役割に注目が集まっています。2018年度からは、総合診療専門医制度が導入されていますが、総合診療医の概念は十分に浸透しているとは言いがたいのが現状です。また、診療範囲も曖昧で、総合診療医の養成が我が国の医療に与える影響は明らかになっていません。
そこで今回は、厚生労働科学特別研究事業として、「総合診療が地域医療における専門医や他職種連携等に与える効果についての研究」を実施しました。
本研究では、まず、総合診療医の実態をできる限り可視化することに努めました。これまで、総合診療医に関する議論がかみ合わないことが多かったのは、論者が自らの個人的経験や印象、見解に基づく別々の医師像に基づいて語ることが原因の一つと考えられたからです。また、総合診療医が、今後の医療において担うべき役割を明らかにするよう試みました。中でも、これからの地域医療において、住民の健康と安心を守るために欠かせない戦略となるタスクシフティングに焦点を当てています。
本研究は、100名を超えるエキスパートに研究協力者としてご協力いただき、大変詳細な、密度の濃い研究成果をまとめることができました。これまで、総合診療に関する著作や論文は数多く発表されていますが、ここまで網羅的かつ体系的にまとめたものは、本研究が初めてであると自負しています。多忙を極める中で、献身的にご協力いただいた皆さまに、この場をお借りして心よりお礼申し上げるとともに、本研究の成果が、我が国の実情に合わせた領域の確立を図るうえで、少しでも役立つことを願っています。
研究代表者
筑波大学 医学医療系 地域医療教育学
附属病院 総合診療科
教授 前野哲博
研究協力者一覧
研究概要
目的
我が国において、総合診療医の概念は十分に浸透しておらず、診療範囲も曖昧で、総合診療医の養成が我が国の医療に与える影響は明らかになっていない。そこで本研究では、総合医療医の位置づけを明らかにした上で、その存在が与える影響について、専門医から総合診療医、総合診療医から他職種、それぞれにおいてタスクシフティング、タスクシェアリングを行った場合の政策効果の観点からの分析を行うことを目的とした。
方法
研究は6 つのパートに分けて実施した。「総合診療医の業務状況及びタスクシフトに関する調査」「総合診療医の診療範囲に関する実態調査」は、日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医を対象として、前者はweb アンケート、後者は日単位の活動記録によりデータ収集を行った。「総合診療医に対する住民の意識調査」は、調査パネルを用いて住民にインターネット調査を実施した。「総合診療に関する国際比較」「総合診療医が今後果たすべき役割に関する提言」は、文献をもとに得られた知見を考察・提言としてまとめた。「総合診療医の活動に関するモデルとなる事例集」については、事例の紹介および総合診療医の貢献、タスクシフティングの可能性等を記載した。
結果
総合診療医への実態調査で、総合診療医が幅広い診療範囲をカバーし、包括的なサービスを提供している実態が明らかになった。住民の意識調査では,総合診療医の認知度は低いものの、高い期待を集めていることが明らかになった。総合診療医に関する国際比較や提言では、今後我が国において総合診療医に期待される役割が明らかになった。事例集では、総合診療医の活躍により、タスクシフティングが推進され、地域医療の充実に貢献している実例が示された。
結論
総合診療医は幅広い診療範囲をカバーし、包括的なサービスを提供しており、総合診療医の活躍により、タスクシフティングが推進され、地域医療の充実に貢献できる可能性が示された。今後の我が国の医療において総合診療医に期待される役割は大きく、国民への認知度が向上すれば、そのニーズが拡大する可能性が高い。今後は、国内外の動向も踏まえながら、我が国における総合診療医のあり方について検討を重ねていく必要性が示唆された。
研究の構成
本研究は、以下の6部で構成されています。
第1部 総合診療医の業務状況及びタスクシフトに関する調査
総合診療医と臓器専門医のタスクシフティング・シェアリングの実態や可能性について明らかにするために実施した、家庭医療専門医を対象としたweb調査。
第2部 総合診療医の診療範囲に関する実態調査
総合診療医が実際に行っている診療範囲について明らかにすることを目的に実施した、家庭医療専門医を対象とした活動記録による実態調査。
第3部 総合診療医に対する住民の意識調査
住民の受療行動,かかりつけ医の実態,総合診療医に対する認知度・理解度、総合診療医に対する期待などについて尋ねた、住民を対象としたインターネット調査。
第4部 総合診療に関する国際比較
総合診療の位置づけに関して、専門医の育成過程、プライマリ・ケアのアウトカムやインパクト、医療制度等に関して海外との比較検討を行った調査。
第5部 総合診療医が今後果たすべき役割に関する提言
日本の医療が抱える様々な問題点に対して総合診療医が提供できる役割について、これまでの報告や研究成果、実例を踏まえてまとめられた提言。
第6部 総合診療医の活動に関するモデルとなる事例集
全国の総合診療医による先駆的な取り組みを提示し、総合診療医の専門性、タスクシフティング、医療や社会に与えるインパクト、他の地域での応用可能性について考察した事例集。